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「もっとこうできていたら」を減らすために|獣医師が伝えたい、猫の最期の時期の決め方

「もっとこうできていたら」を減らすために|獣医師が伝えたい、猫の最期の時期の決め方

この記事で分かること

  • 猫は痛みを隠す。「顔」で痛みに気づく方法と、飼い主さんでも見分けられたという研究
  • 猫の専門家のガイドラインが、獣医師に「考えて」と言っているご家族の4つの余裕
  • 「その時」を迷ったときに使える、毎日の「いい日・つらい日」記録
  • 治療を続ける・つらさを和らげることを中心にする・安楽死、という3つの道
  • 元気なうちに家族で決めておきたい5つのこと
  • 主治医に聞いておきたい質問リスト

    この記事は、うちの子の治療をやめるかどうかや、安楽死を選ぶかどうかを決めるものではありません。 決めるのは、その子を一番よく知っているご家族と、体の状態を見ている主治医です。この記事は、その話し合いの準備のためのものです。

結論:「その時」は、一日で分かるものではありません

先にお伝えしたいことを4つだけ書きます。

「この検査値になったら最期」という一本の線はありません。毎日の小さな変化を記録していくと、少しずつ見えてきます

猫は痛みを隠しますが、顔には出ます。 飼い主さんでも、ポイントを知っていれば気づけることが研究で分かっています

ご家族のお金・時間・気持ち・体力を考えることは、わがままではありません。猫の専門家のガイドラインでも、獣医師が考えるべきこととして書かれています

一番後悔が残りやすいのは、急に決めなければいけなくなったときです。元気なうちに「どうしたいか」を家族で話しておくだけで、迷いはずいぶん減ります

猫は痛みを隠す。だから「顔」を見る

猫は、具合が悪くても、痛くても、じっとがまんしてしまう動物です。

「鳴かないし、動かないけど、寝ているだけかな」

最期の時期に、飼い主さんが一番迷うのがここです。

そこで知っておいてほしいのが、「フィーライン・グリマス・スケール(猫のしかめ顔スケール)」 です。カナダの研究チームが作った、猫の顔つきで痛みを見る方法で、次の5つを見ます。

  • 耳の位置:ふだんは前を向いて立っている耳が、外に開いたり、横に倒れたりしていないか
  • 目:目を細めている、しょぼしょぼさせていないか
  • 口元:口のまわり(マズル)がこわばって、楕円から丸くはったように見えないか
  • ひげ:ひげがピンとまっすぐ張っていたり、前に向いていたりしないか
  • 頭の位置:頭が肩より下がっている、あごを引いてうつむいていないか

飼い主さんでも見分けられる?

2023年に、この方法を飼い主さんが使えるかを調べた研究があります。[1]

66か国、1,262人の飼い主さんと、獣医師8人が、同じ10枚の猫の写真を採点しました

5つの合計点は、飼い主さんどうしでも「よく一致する」という結果でした(獣医師どうしは「とてもよく一致する」)

とくに耳と目は、飼い主さんでも見分けやすい項目でした。ひげと頭の位置は、獣医師でも難しい項目でした

年齢や性別などで、点数に差は出ませんでした

研究チームは、猫は病院より家のほうがリラックスしているので、飼い主さんが家で見ることに意味があると書いています。病院では緊張して、ふだんの顔が見えないことがあるからです。

家での使い方

元気なときの顔を、正面から写真に撮っておいてください。 比べる「いつもの顔」があると、変化に気づきやすくなります

寝起きや毛づくろい中ではなく、起きて落ち着いているときの顔を見ます

まずは耳と目だけで大丈夫です

「いつもと違う顔をしている」と思ったら、写真を撮って主治医に見せてください

ひとつ注意があります。この研究は写真で、急な痛み(手術のあとなど)を見たものです。慢性の病気や最期の時期にどこまで当てはまるかは、まだ確かめられていません。「痛みを点数で決める道具」ではなく、「変化に気づくきっかけ」として使ってください。

痛みに気づければ、痛み止めなど、つらさを和らげる方法を主治医と相談できます。「気づいてあげられなかった」という後悔を、少し減らせると思います。

家族の「4つの余裕」を考えていい

もうひとつ、ぜひ知っておいてほしいことがあります。

アメリカの猫の専門の獣医師の団体(AAFP)が2021年に出したシニア猫のケアのガイドラインでは、治療の計画を立てるとき、獣医師はご家族の「4つの予算」を考えるように、と書かれています。[2]

  • お金
  • 時間(通院、毎日のお世話)
  • 気持ち
  • 体力

そして、この4つのどれを大事にするかは、ご家族によって違うことを理解して話し合うように、とされています。

最期の時期の治療は、ご家族の生活と切り離せません。

仕事を休んで毎日通院するのが、もう難しい

夜中のお世話で、自分の体がもたない

これ以上の治療費は、正直に言うと厳しい

こう思うことは、愛情が足りないからではありません。猫の専門家のガイドラインでも、決めるときの大事な材料として扱われていることです。

主治医には、遠慮せず伝えてください。「通院を週1回にしたい」「費用はこのくらいまで」と言ってもらえると、獣医師はその中でできることを一緒に考えられます。

迷ったときの「いい日・つらい日」記録「HHHHHMMスケール」

「その時」を考えるときに、獣医師がよく使う考え方があります。生活の質(QOL)を、いくつかの項目で見ていく方法です。

海外の獣医師が作った「HHHHHMMスケール」では、次の7つを0〜10点でつけます。

  • 痛み:痛そうな顔(上の5つ)や、しぐさはないか。呼吸は楽そうか
  • 食事:自分で食べられているか
  • 水分:水を飲めているか
  • 清潔:毛づくろいやトイレが自分でできるか。体が汚れていないか
  • よろこび:家族に反応するか。好きなことに興味を見せるか
  • 動き:自分で立って、歩いて、好きな場所に行けるか
  • いい日のほうが多いか

点数そのものより、毎日つけて、変化を見ることに意味があります。

おすすめの記録のしかた

カレンダーに、毎日1つだけ書き込んでください。

○ いい日(ごはんを食べた、そばに来た、日なたぼっこをした)

△ ふつうの日

× つらい日(食べない、隠れている、痛そうな顔をしている)

週に1回、いつもと同じ場所・同じ時間に、顔の写真を撮っておくのもおすすめです。

1〜2週間たつと、「最近×の日が増えてきた」「×が続いたあとに○の日もある」といった流れが見えてきます。

この記録と写真を主治医に見せると、「どう感じているか」を言葉にしやすくなります。 家族の中で意見が分かれたときにも、同じものを見て話せます。

診察で、私が見ていること

ここからは、論文ではなく、私が診察で見てきた経験です。病気によって違いますが、次のような変化が重なってくると、ご家族と「これからのこと」を話し始めることが多いです。

  • 好きだったごはんやおやつにも、口をつけない日が増える
  • 毛づくろいをしなくなり、毛並みがぼさぼさになる
  • 体重が減って、背骨や腰の骨がさわって分かる
  • トイレまで間に合わない
  • 高いところに乗らなくなる。歩くのをいやがる
  • 暗いところに隠れて出てこない
  • 呼んでも反応がうすい

これらは「最期のサイン」と決まったものではなく、治療やケアで良くなることもあります。気づいたら、まず主治医に「こういう変化がある」と伝えてください。

すぐに病院に連絡したほうがいいとき

  • 口を開けて息をしている、呼吸がとても速い、苦しそう
  • けいれんしている
  • 立てない、意識がはっきりしない
  • 何度も吐く、ぐったりしている

「もう最期が近いから」と思っていても、つらさを和らげる方法がある場合があります。夜間でも、病院に連絡してください。

3つの道:治療を続ける・つらさを和らげる・安楽死

最期の時期に、獣医師がご家族と話す道は、大きく分けて3つです。AAFPのガイドラインでも、最後の章で、緩和ケア・ホスピス・安楽死と、それを決めるための話し合いが取り上げられています。[2]

① 治療を続ける

検査をして、点滴や薬などの治療を続ける道です。

良くなる見込みがある、本人が治療をいやがりすぎていない、ご家族の「4つの余裕」がまだある、というときに選ばれやすいです

「どこまで続けるか」を、ときどき主治医と見直すことが大切です

② つらさを和らげることを中心にする(緩和ケア)

病気を治すことより、残りの時間を少しでも楽に、その子らしく過ごすことを目標にする道です。

痛み止め、吐き気止め、食欲を助ける薬、家でできる点滴など、つらさを減らすための治療は続けることがあります

通院の回数を減らす、苦手な検査はしない、と決めることもできます

「治療をやめる=見捨てる」ではありません。目標を変えるだけです

③ 安楽死という選択肢について

安楽死という言葉を口にするだけで、罪悪感を持つ飼い主さんは少なくありません。

でも、つらさを和らげる方法を尽くしても、本人が苦しい時間が長くなってしまうとき、安楽死は「その子のために」考えられる選択肢の一つです。

選ぶかどうかは、ご家族が決めることです。獣医師がすすめることも、責めることもありません

考えていることを主治医に話しても大丈夫です。話したからといって、すぐに決めなければいけないわけではありません

どこで(病院か、家に来てもらえるか)、誰がそばにいられるか、どんな流れになるかは、事前に聞いておくことができます

迷ったまま決められないときは、「もう少し様子を見る」も立派な答えです

元気なうちに、家族で決めておきたい5つのこと

一番後悔が残りやすいのは、夜中に急に具合が悪くなって、何も決まっていないまま判断しなければいけないときです。

まだ落ち着いているうちに、次の5つを家族で話しておいてください。

  • 最期を迎えたい場所:家で看取りたいか、病院で治療を受けながらがいいか。どちらでもいいと思えるなら、それも答えです
  • 夜や休日に急変したとき:かかりつけに連絡がつかないとき、夜間の救急病院に行くか、家で見守るか。行くなら、病院の名前と電話番号を冷蔵庫に貼っておく
  • 「ここまではする」「ここからはしない」:入院、酸素室、手術、強制給餌、チューブでの栄養など。全部を決めなくてもいいので、「これはこの子には合わないかも」と思うものを話しておく。4つの余裕(お金・時間・気持ち・体力)も、正直に出し合ってください
  • 誰がそばにいたいか:最期のときに会いたい家族はいるか。遠くに住んでいる家族に、いつ連絡するか
  • 見送ったあとのこと:ペット霊園や火葬の業者を、落ち着いているうちに調べておく。見送ったあとに調べるのは、とてもつらいからです

家族の意見が違っても大丈夫です。話した、ということ自体が、あとで「ちゃんと考えてあげた」と思える支えになります。

主治医に聞いておきたい質問リスト

診察のときに聞きにくい質問ほど、メモにして持っていくのがおすすめです。

  • この子の病気は、これからどんな経過をたどることが多いですか
  • 今の治療の目標は、「治す」ことですか、「楽に過ごす」ことですか
  • 痛がっているかもしれないとき、家で見るポイントはありますか(顔の写真を見せながら)
  • 家でできる、つらさを和らげるケアはありますか
  • 通院や費用の負担を減らす方法はありますか
  • 夜間や休日に具合が悪くなったら、どこに連絡すればいいですか
  • 往診をしてくれる獣医さんを知っていますか
  • 安楽死について考えるとしたら、どんな流れになりますか(聞くだけでも大丈夫です)
  • 「先生ならどうしますか?」と聞いてもかまいません。

見送ったあとに

どんなに準備をしても、見送ったあとには「もっとこうできていたら」が残ります。

もっと早く病院に連れていけばよかった

最後の検査はしなくてよかった

安楽死を選んだのは、早すぎたのかもしれない

安楽死を選ばなかったから、苦しませたのかもしれない

お金や仕事のことを考えてしまった

診察室で、どれも聞いてきました。同じ選択をしても、後悔する方もいれば、しない方もいます。 それは、選んだ答えが間違っていたからではありません。

その子のことをずっと考えて、迷って、ご家族の暮らしと両方を守りながら決めた。それ以上のことは、誰にもできなかったと思います。

つらい気持ちが長く続くとき、眠れない・食べられない日が続くときは、ひとりで抱えないでください。家族や友人、主治医に話すことも、大切な看取りの一部です。

まとめ

「その時」が一日で分かる線はない。毎日の「いい日・つらい日」を記録すると見えてくる

猫は痛みを隠す。耳と目を中心に、顔の変化を見る。 元気なときの顔の写真を撮っておく

お金・時間・気持ち・体力の4つの余裕を考えるのは、わがままではない

治療を続ける・つらさを和らげる・安楽死、どれもその子を想って選ぶ道

元気なうちに家族で5つのことを話しておく

聞きにくいことほど、メモにして主治医に聞いていい

この記事が、大事な子との残りの時間を、少しでも穏やかに過ごすための助けになればうれしいです。

 

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例:通院がつらくなってきた子で、これからのケアを主治医とどう話せばいいか整理したいとき
お空に行ってしまった後に、気持ちの整理をしたい時、
亡くなった理由を一緒に考えて欲しいとき、
ぜひご相談ください。

 

獣医師岡本理愛

このコラムを執筆したのは

獣医師 岡本理愛
  • 【経歴】
  • 2023年 国立大学共同獣医学部 獣医学科 卒業
    2023年 都内一次診療の動物病院にて勤務(犬猫の一般診療・予防医療・外科処置)
    2024年都内1.5次診療の動物病院にて勤務(一般診療・外科処置・腫瘍科診療)
  • 【資格】
  • ・獣医師免許(2023年取得)

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