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10歳を過ぎた猫の3〜4頭に1頭。腎臓病と上手に付き合うために、今日からできること

10歳を過ぎた猫の3〜4頭に1頭。腎臓病と上手に付き合うために、今日からできること

腎臓病は、シニア猫にとても多い病気です

慢性腎臓病は、年をとった猫で特に多く診断される病気のひとつです。 国際猫医学会(ISFM)のガイドラインでは、10歳以上の猫の30〜40%が腎臓病を抱えている可能性があるとされています。

つまり、「うちの子はまだ元気だから大丈夫」ではなく、シニアになったら、どの子にも起こりうる病気として知っておいてほしいのです。

腎臓病は、気づきにくい病気です

腎臓は、働きがかなり落ちてくるまで、目に見える症状が出にくい臓器です。 そのため、症状に気づいたときには、ある程度進んでいることも少なくありません。

だからこそ、小さな変化を見逃さないことが大切です。

気づきたいサイン

次のような変化があれば、一度かかりつけの病院で相談してみてください。

  • お水を飲む量が増えた(水入れの減りが早い、蛇口やお風呂の水を欲しがる)
  • おしっこの量や回数が増えた(トイレの砂の固まりが大きい、数が多い)
  • 体重が少しずつ減ってきた
  • 食べムラが出てきた、食べる量が減った
  • 吐く回数が増えた
  • 毛づやが悪くなった、毛づくろいをしなくなった
  • 口のにおいが気になる

ひとつひとつは「年のせいかな」と思いやすい変化です。 でも、いくつか重なっていたら、様子見をせずに相談するタイミングです。

急いで受診してほしいとき

  • ぐったりして動かない
  • 丸1日以上、ほとんど食べない
  • 何度も吐く
  • おしっこが出ていない

このようなときは、時間を置かずに動物病院を受診してください。

病院でわかること

腎臓病は、主に次の検査を組み合わせて調べます。

  • 血液検査:クレアチニン、SDMA などの数値で、腎臓の働きを見ます。
  • 尿検査:おしっこの濃さ(尿比重)や、たんぱくが出ていないかを見ます。
  • 血圧測定:腎臓病の猫は高血圧を合併することがあります。

ISFMのガイドラインでは、7歳を過ぎた猫は半年に1回くらいの健康チェック(体重、血圧、血液検査、尿検査など)がすすめられています。

元気なうちに一度検査をしておくと、その子の「いつもの数値」がわかります。 少しの変化にも気づきやすくなるので、おすすめです。

おうちでできる準備

受診するときに、次のものがあると診察がスムーズです。

  • 体重の記録(月に1回でも十分です)
  • おしっこ(清潔な容器にとって、できれば数時間以内に)
  • 気になる変化のメモ(いつから、どのくらい)

ご飯でできること

療法食とは

腎臓病と診断されたあとは、腎臓病用の療法食がすすめられることが多いです。 一般的なご飯と比べて、主に次の点が調整されています。

  • リンを控えめにする:腎臓が弱ると、リンを体の外に出しにくくなります。
  • たんぱく質の量を調整する:たんぱく質が分解されてできる老廃物を減らします。
  • ナトリウム(塩分)を控えめにする
  • オメガ3脂肪酸(EPAなど)を加える:多くの療法食に入っています。

療法食は、腎臓病の治療のなかでいちばん研究が積み重ねられている方法のひとつです。

療法食で何が変わるのか:研究でわかっていること

腎臓病の猫に療法食を食べてもらった研究を、3つ紹介します。

① 尿毒症の悪化が少なかった(Ross ら, 2006年) 腎臓病の猫45頭を、療法食のグループ(22頭)と一般的なご飯のグループ(23頭)にくじ引きのように無作為に分けて、最長2年間比べた研究です。

  • 尿毒症(腎臓の働きが落ちて、老廃物が体にたまり、具合が悪くなる状態)を起こした猫は、一般食のグループで26%、療法食のグループでは0%でした。
  • 腎臓病が原因で亡くなった猫も、療法食のグループで少なかったと報告されています。

研究の方法として、いちばん信頼性が高い形で行われた研究です。 ただし、腎臓病以外も含めた「すべての原因での死亡」には、はっきりした差は出ていません。また、頭数も多くはありません。

② 生存期間が長かった(Elliott ら, 2000年) 腎臓病の猫50頭を追いかけた研究です。

  • 生存期間の中央値は、療法食のグループで633日、一般的なご飯のグループで264日でした。

ただし、この研究では「療法食を食べてくれた猫」が療法食のグループになっています。また、療法食のグループだけ、リンの値を下げる薬などで管理されていました。そのため、この差のすべてが食事の効果とは言い切れません。

③ 療法食の猫は約2倍長く生きていた(Plantinga ら, 2005年) 過去のカルテをさかのぼって、腎臓病の猫321頭を調べた研究です。

  • 生存期間の中央値は、一般的なご飯の猫で約7か月、療法食の猫で約16か月でした。
  • 療法食の種類によっても差があり、いちばん長かったのはEPA(オメガ3脂肪酸)を多く含む療法食でした。

過去の記録を見た研究なので、病気の重さなど、グループの違いが結果に影響している可能性があります。

3つの研究をまとめると どの研究にも弱点はありますが、方法の違う研究で、そろって療法食に良い結果が出ていることが大切なポイントです。 こうした研究をもとに、国際猫医学会(ISFM)のガイドラインでも、腎臓病の猫には療法食を食べてもらうことが強くすすめられています。

ひとつ知っておいてほしいのは、療法食は腎臓を元どおりにするものではないということです。進行をゆるやかにして、体調の良い時間を長くすることを目指すものです。

では、いつから始めるのがいい?

腎臓病は、血液検査の数値などで4段階(ステージ1〜4)に分けられます。国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)という専門家のグループが決めた分け方で、世界中の動物病院で使われています。

ステージ2から 先ほどの研究は、主にステージ2〜3の猫で行われています。そのため、ステージ2になったら療法食を始めるのが、今の国際的な考え方です。
ステージ1で始めることもある 次のようなときは、ステージ1でも食事を変えることがあります。

  • 尿にたんぱくが出ている → 療法食
  • 血液のリンの値が高い → 療法食
  • 血圧が高い → 塩分を控えた食事

早すぎても良いわけではない。

「それなら、早く始めたほうが安心」と思うかもしれません。 でも、ステージ1で特に異常のない猫に療法食をすすめる根拠は、まだ十分ではありません。 シニア猫は、年齢とともに筋肉が落ちやすくなります。必要以上にたんぱく質を控えると、かえって体力を落としてしまうおそれがある、という意見もあります。
いつ始めるかは、その子の検査結果を見て決めることです。 自己判断で切り替えず、必ず獣医師と相談してから始めてください。

上手に切り替えるコツ
療法食は、「始めるタイミング」と「切り替え方」で、食べてくれるかどうかが大きく変わります。

  • 食欲があるうちに始める 腎臓病の初期は、まだ食欲があることが多いです。この時期のほうが、新しいご飯を受け入れてもらいやすいと言われています。
  • 1〜2週間かけて、少しずつ混ぜて切り替える 今のご飯に少しずつ混ぜて、割合を増やしていきます。もっと時間をかけても大丈夫です。
  • 具合が悪いときや入院中には始めない 気持ち悪いときに食べたご飯を、猫は「嫌なもの」と覚えてしまうことがあります。体調が落ち着いてから始めましょう。
  • 療法食にも種類がある メーカーや味、ドライとウェットなど、いろいろな種類があります。1つが合わなくても、ほかのものなら食べてくれることもあります。

「療法食を食べてくれない」とき
これは本当によくある悩みです。

  • 少し温めて、香りを立たせる
  • ドライとウェット、形の違うものを試してみる
  • 器や置き場所を変えてみる

それでも食べないときは、無理をさせないでください。 食べないことそのものが、猫の体にとって大きな負担になります。療法食を食べずに体重が落ちてしまうより、食べてくれるご飯を食べてもらうほうが大切な場面もあります。 そのときは、リンの値を下げる薬を使うなど、ご飯以外の方法を組み合わせることもできます。 「食べてくれない」ときは、ひとりで悩まず相談してくださいね。

暮らしでできること:お水を飲みやすくする

腎臓病の猫は、体の水分が不足しがちです。 毎日の暮らしのなかで、自然にお水を飲める工夫をしてみてください。

  • 水飲み場を家の中に何か所か置く
  • 器の素材や形を変えてみる(ひげが当たらない、広くて浅い器を好む子も多いです)
  • 流れる水が好きな子には、給水器を試す
  • ウェットフードを取り入れる(ご飯から水分をとれます)
  • お水はこまめに新鮮なものに替える

どれが合うかは、その子によって違います。 いくつか試して、「うちの子のお気に入り」を見つけてあげてください。

最後に:「気づけなかった」と自分を責めないでください

腎臓病は、症状が出にくい病気です。 診断されたときに、「もっと早く気づいてあげればよかった」と自分を責める飼い主さんを、私はたくさん見てきました。
でも、気づきにくい病気だから、気づけなかったんです。 それは、あなたがその子を大切にしていなかったからではありません。
腎臓病は、ご飯や暮らしの工夫、治療で、猫と穏やかに過ごせる時間を長くできることも多い病気です。 これからできることを、一緒に考えていきましょう。

オンラインで相談できます

「お水をよく飲むけど、病院に連れていくべき?」 「療法食を食べてくれなくて困っている。うちの子におすすめのフードが知りたい。」 「検査の数値の意味を、もう少し詳しく知りたい」「かかりつけで腎臓病と言われたけど、他の先生にも相談してみたい」「うちの子におすすめのサプリメントが知りたい。」
そんなときは、オンラインで個別に相談を受けています。どんな些細な疑問や不安にも全力でお答えしますのでぜひ頼ってください(^・o・^)ノ"


 

獣医師岡本理愛

このコラムを執筆したのは

獣医師 岡本理愛
  • 【経歴】
  • 2023年 国立大学共同獣医学部 獣医学科 卒業
    2023年 都内一次診療の動物病院にて勤務(犬猫の一般診療・予防医療・外科処置)
    2024年都内1.5次診療の動物病院にて勤務(一般診療・外科処置・腫瘍科診療)
  • 【資格】
  • ・獣医師免許(2023年取得)

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